「スペードの女王」


 「スペードの女王」は、プーシキンの短編小説『スペードの女王』(1835)の映画化。1916年の作品で監督は、後に「アエリータ」(1924)を撮ることになるヤーコフ・プロタザーノフ(1881〜1945)で、この「スペードの女王」は「セルギー神父」(1917)と並んで彼の革命前の代表作とされています。
 物語は、貧しく運のない近衛士官ゲルマンが主人公です。彼は、今は年老いた伯爵夫人が、かつて社交界で浮名を流し、賭博で無一文になりながらそれを取り戻したことには、トランプの3枚のカードに秘密があることを知りました。野望を抱いたゲルマンは、伯爵夫人の養女リーザに言い寄って心を奪います。リーザから伯爵夫人の寝室の鍵を手に入れたゲルマンは、忍び込んで伯爵夫人に3枚のカードの秘密を教えるように迫ります。恐がって言おうとしない伯爵夫人に、ゲルマンが焦ってピストルを見せると伯爵夫人は驚きのあまり発作を起して死んでしまいます。リーザは伯爵夫人が死んだことを知らされ、ゲルマンの望みを知って絶望します。ゲルマンが望みをたたれて沈み込んでいると、伯爵夫人の亡霊が現れ、トランプの勝ち札は「3、7、1」だと教えます。賭博場に向かったゲルマンは、まず「3」で、続いて「7」を張って勝ちます。そして3回目、ゲルマンはカードを「エース」と張りますが、出てきたのは「スペードのクイーン」でした。
 映画は、精神病院のベッドの上でトランプを切る仕草をし、毎回、スペードのクイーンを引き当ててしまう妄想にとり憑かれたゲルマンの姿で終わります。
 この作品では、目の下の隈取や鷹揚な演技といった舞台の伝統をひきづってはいるものの、破滅へと導かれるゲルマンが見事に描かれています。また、極端なまでの陰影をつけた照明、賭博場を主人公と共に移動するカメラなど、"映画的なるもの"とは何かを探ろうとするプロタザーノフやスタッフたちの意気込みを随所に感じさせてくれます。
 今日、「セルギー神父」のスチール写真として目にするものは、「スペードの女王」の賭博場の一場面と似た雰囲気があります。革命前のプロタザーノフの集大成とされる「セルギー神父」ですが、本作からどのように発展していったのかが気になるところです。
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